Opalpearlmoon

Yahoo!ブログから移転しました。

それはもう一つの未来 ~『愛と剣のキャメロット』雑感~

 
いや~、いきなり飛びましたね!
 
なんせ『雑感』ですから、順番通りではなく行きつ戻りつしながら思いついたことを書いていこうと思います。
 
『愛と剣のキャメロット』は、前書きにもある通り映画の為に書かれたスペシャル版となっています。
この作品が出版された当時、マリナシリーズは「愛する君のために」まで出ていました。
アニメの為に作品を書こうとも、和矢、シャルル、美女丸、薫、ガイとメインキャストのほとんどがモザンビークに行ってしまっているというシビアな状況で止まっており、アニメにふさわしい楽しい作品は書けない状態。
アニメ化の話がきて脚本を書き始めたころはもっと前だと思うのですが、それでも時期的に考えて和矢とシャルルはモザンビークにいってると思われますから、この二人は制限がかかってしまう。
そこで、ファンの皆に喜んでもらいたいという気持ちを込めて、本筋はいったん置くという形でメイン五人そろい踏みの夢の共演を書き下ろしたのです。
この時点で美女丸と薫とカークは面識ないはずなのに、なぜか薫がメイン全員に招待状を送ってくるという始まり方をするわけですからね。
これは真面目に考えちゃいけない、お祭りなんだと思ってそんなに考えたことがなかったんですよ。
だからマリナシリーズ20冊の中でもどちらかと言うと印象の薄い作品だったんです。
本筋に関係ないし。
しかし今回再読して少しだけ見方が変わったんです。
 
これは「モザンビーク行き」がなかった場合の、もうひとつの未来だったのではないか、と。
 
リアルタイムで これはみんながモザンビークから帰ってきたあとの話なんじゃないか、と予想されたかたもいらっしゃったかと思います。
漫画家マリナシリーズは『愛は甘美なパラドクス』で、一応の収束をしました。
五人に面識はできたものの、シャルルは別れを告げ、薫はこん睡をし、それが解決した後でもキャメロットのような人間関係になるとは考えにくい。
そのことを知ってしまっている、二十年後の今の私から見ると、モザンビークに行くことのなかった、
もうひとつの未来、パラレルワールドのように思えたのです。
 
それはなんて甘やかな想像でしょう。
薫はこん睡することもなく元気でいて、美女丸とシャルルはマリナを想っていて、和矢は右腕が動いてマリナとラブラブで意地っ張りな性格をしてる。
マリナを通じて知り合いになり、薫の招待状に応じるような仲になった。
想像すると、遠い青春を懐かしむような、甘くほろ苦いような気持ちになってしまう。
 
決して『愛と哀しみのフーガ』以降のお話や展開や結末を否定しているわけではありません。
それは絶対に違う。
ただ、そこから大きく物語の流れが変わっていったのは確かだと思うんです。
みんな悩み成長し、大人になっていったのだから、当然です。
 
でも……和矢ファンの私は想うんです。
和矢はモザンビークに行く前と帰ってきた後ではだいぶ変わりました。意地っ張りなところがなくなり、情熱的で強い人になった。
大人になった。
もちろんそういう和矢も大好きです。
しかし、もう彼はいたずらっぽく瞳をきらめかせたり、意地を張りすぎて行き違いのケンカをしたり、「まあね……でも、このくらいでヤイてたら、マリナのそばにゃいられないから」なんて言わないと思うんです。
それがすこしだけ、淋しい。
そう想うことを許して下さい。
 
キャメロットには薫の兄上も登場します。
拘置所の中ではなく、響谷の家の中で。
ひょっとしたらこの世界では巽は罪を犯さず、穏やかに暮らしているのかもしれないですね。
それは夢のように甘美だ。
 
切ないほどまばゆい「もうひとつの未来」。
モラトリアムの中で無邪気に笑う彼らを懐かしみ愛おしく想うのは、私が歳を重ねてしまったからかもしれません。