愛しい欠片を集めて 銀バラの欠片
蒼い空はどこまでも高く在り、金色の陽光が一片の翳りもなく降り注いでいる。 その輝きの中で、薔薇は誇り、芍薬は華やぎ、百合は佇み、鈴蘭は寄り添うようにして、庭を色とりどりに染め上げている。 春を一番美しく感じるテラスの、向かい合わせの小さなテ…
『ユメミは、レオンさんが好きなんだ……』 アキの言葉が耳に焼きついてる。 レオンはすげえやつだ。 あいつのプレーは完璧だ。ゴールを割られたことは一度もないし、ポジションはなんだってできる。 サッカーだけじゃなくて、なにをやっても人並み以上にこな…
銀狼に捧げる小品集、無事に書き終えることができました。 昨年はブログを始めたばっかで、さらに二次創作を始めてもいなかったので、普通のお誕生日のお祝いだけだったんですよね。 ヒロシをお祝いできてよかった!! ようやく銀バラメンバー一周できまし…
どうする?! オレは、とりあえず身を隠さなきゃと思って、ソファの下に伏せて座った。 後から考えたら余計なことをはしないで、保護された迷い犬の顔をしていれば普通に切りぬけられたと思うんだけど、動揺してしまって駄目だったんだ。 息を飲み、全神経…
あっ、やべえ! 学校のかばんを広げて、机の上にひっくり返しても、グラマーの教科書はどこにも見当たらなかった。 いつもの癖で、教室に置いてきちまったんだった。 明日はテストだったよな。 そこそこ英語はできる方だけど、グラマーは苦手なんだよ、オレ…
式が終わって、教室で話を聞いて、体操服や教科書を受け取って、また先生の話を聞いて。 高校生活第一日目は、想像していたよりあっさりと終わった。 オレの席はまん中の列の一番後ろ。 席に着いたままクラスを見渡す。 学区も近いし、同じ中学からきている…
靴箱を開けると、小さな紙袋と可愛らしいビニールの袋が、上履きを避けるように詰め込まれていた。 急いでサブバッグにしまって、あたりを見渡す。 大丈夫、見られてない。 ホッと息をついて、上履きに履き替えた。 なんで隠すんだって? もちろん、もらえる…
今日はひな祭り。 そしてボクの誕生日でもある。 ボクは自分の誕生日があんまり好きじゃない。 だって、女の子の日だよ?!小さい頃は口の悪い同級生に散々からかわれた。男のくせに女の日かよ、ほんとは女なんじゃないかって。 身体が弱くて七五三は女の子…
今日の進路面談は散々だった。 時おり強く吹きつける風にあおられながら、門から続く道を歩いている。 冷泉寺、おまえが北高だなんて何を考えているんだ おまえの成績ならどこでも狙えるんだぞ 悪いことはいわない 考え直せ なっ! 担任の教師は驚き嘆き、…
以前お知らせしたブログの公開設定についてですが、変更しましたのでお知らせいたします。 まず、「愛しい欠片を集めて」から「銀バラの欠片」「マリナの欠片」と作品別に分けました。 それから今まで公開限定設定でアップしていた作品を、数作品全公開にし…
「聖樹・レオンハルト・ローゼンハイム・ミカエリス・鈴影さんのお誕生日を盛大にお祝いするお祭り」 略して「聖誕祭」、無事完走できました。 元々アドヴェンツクランツの四本の蝋燭に合わせて、四本の短編を上げる予定だったんですね。 「一緒に貴女と」…
自室に戻ると、時計の針が頂点を越えたところだった。 真っ直ぐにデスクへ向かう。 そこには愛らしい絵の描かれたカードが置いてある。 アドヴェンツカレンダー。 弟のためのものとは別に、オレのために手作りされたものだ。 “鈴影さんの分のアドヴェンツカ…
今年最後の祝日。 うちの一階の間取りが全部入りそうなくらい広いリビングで、あたしはせっせと金色のモールに緑と赤のリボンをつけていた。 ことの初めはアドヴェンツカレンダーだった。 11月の終わり、あたしはロッジで天吾と人吾のためにアドヴェンツカ…
その情報が入ってきたのは、帰国して間もなくのことだった。 「風のシルフの聖十字」がハワイで行われるオークションにでる。 共にオークションカタログが添えられていたが、その文面だけではそれが我が銀のバラ騎士団の至宝であり七聖宝のひとつ、「風のシ…
イチョウの黄 カエデの赤 サクラの朱 そしてプラタナスの橙 落葉樹たちは日に日に色めいていく。 カシャリ、と心地よい音を立てて落葉の飾る道を往く。 いつもなら車止めまでつけるのだが、今日は門前で降りて、庭を歩いた。 気分転換のつもりだった。 先週…
わーん、いったいここはどこなのよ!? あたしは延々と続く廊下の真ん中で、茫然と立ちつくした。 それは11月のはじめのことだった。 本当は勉強会の日じゃないんだけど、あたしは入団試験の勉強をするためロッジにきたの。 今日は、天吾と人吾はお友だちの…
わたしとお母さまは、夏のお休みになると、山のお屋敷へとお泊りにいく。 お父さまはお忙しいから、いつも後からいらっしゃる。 だから、これまではお母さまとわたしの二人きりだった。 でもね、今年は違うの。 お友だちが待っているから。 レオンくん。 お…
ガキのころ、オレたちの間に違いなんてなかった。 いっつも、遊んでケンカして仲直りして、笑って怒って泣いて、また笑って。 その繰り返しがオレ達の日常だった。 いつからだろう、あいつは小さくなっていった。 オレの背が伸びただけなんだけど、隣にあっ…
バンドームの眼差しには明らかな失望が、声には譏訶の響きがあった。 ――罪を犯した自分に向けて。 あのとき、自分を止めることができなかった。 どうしても。 どうしても。 夢中で抱きしめて、想いを告げた。 そこには彼女を思いやるよりも、自分を押しつけ…
私たちは、月光のピアスの超自然的な力によって癒されたものの、やはり手当は必要ということになり、病院に搬送されることになった。 しかし、あれだけの大怪我をして生命のふちをさまよったというのに、うちみ程度の手当しかされなかった。 あの光はなんだ…
ドク、ドク、ドク…… 心臓の音のように響く熱さに追い立てられるように、私は意識を取り戻した。 ゆっくりと目をあけると、そこはうす暗く、檻のように囲うものが見えた。 目を凝らし様子をうかがう。 細く、太く、まばらで……これはなんだ?木の、枝? どうい…
急いで庭に出ると、立ち枯れた木々は折れ、地面は不自然にえぐれていた。 それを避けながら、魔宿樹のもとへと向かう。 あたりは焦げくさいにおいと煙、そして霧が満ちていた。 おい、こんなものさっきまでなかったぞ! こんな短時間で自然に発生するもので…
光坂はまだ意識が戻らず、眠っていた。 その顔を心配そうに眺めてから、高天はソファーに脚を投げ出すように座った。 レオンハルトは私にソロモンの円陣の中に入るように指示をし、テーブルの前に軽く腰をかけるように立った。 そして、私がベッド脇の椅子…
緩やかに空は白みだし、窓越しに鈍い光をおとす。 薄ぼんやりとした光の中で、私はベッドから身を起こした。 結局、一睡もできなかった。 しかし、昨日の頭痛はなくなり、体もだいぶ軽い。 まあまあ、といったところか。 部屋に備え付けた手桶の水で顔を洗い…
光坂亜輝は焦っていた。 なぜなら、まもなく月がのぼるからだ。 夏の満月が夜の帳に光を投げおろす時間は19:00。 もう時間がない。 バスから降りると、彼は夢中で走りだした。 月と出逢う前に、彼はどうしても帰らなくてはならないのだ。 高天宏は忘れてい…
気がつくと、私はベッドの中にいた。 軽く頭痛がする。 身を起こしてみると、燭台のやわらかい灯りに照らされて、椅子に腰かけているレオンハルトが見えた。 「ああ、気がついたか」 レオンは私の目覚めに気がつくと、燭台を持って椅子から立ち上がり、私の…
「おまえはなにがほしい」 その白い花を受け取ったとき、声が聞こえた。 低い女の声。だがそれはすぐに聞きなじみのある響きに変わった。 『おまえはなにがほしい?』 低く艶やかな、染み入るような、レオンの声。 それは私の耳元で囁くように聞こえた。 そ…
月が踊る 眠れない夜 君に逢いたいでも 逢えない、そんな夜 子供みたいに不安になるよ ボクじゃない誰かが君を攫うよ もう少し待って、君のもとにいくよ もう少し待って、君にふさわしくなるよ 君といると心地が良くて、つい甘えてしまうよ 君はボクを見てく…
「花火を観に行こう」 そう誘ったのは鈴影さんからだった。 いつもあたしは鈴影さんをいろんなことに誘っていた。 彼に人生を楽しむことを教えてあげたかったから。 考え方の幅を広げ、もっと幸せになってほしかったから。 そのたびにやんわりと断り拒否して…
魂が呼び合うように君はふらりと歩み出した その姿をみたとき、オレはどのような姿をしていただろう 縫い付けられたかのように立ち竦み、いとも簡単に胸は抉られ、あざやかな鮮血が吹き出すのを感じた 誰かに恋をするのは耐えられる その瞳が甘く潤んでオレ…