想望
魂が呼び合うように君はふらりと歩み出した
その姿をみたとき、オレはどのような姿をしていただろう
縫い付けられたかのように立ち竦み、いとも簡単に胸は抉られ、あざやかな鮮血が吹き出すのを感じた
誰かに恋をするのは耐えられる
その瞳が甘く潤んでオレ以外を見つめたとしても
誰かに愛されるのは耐えられる
その唇が歓喜に震えてオレ以外に触れたとしても
だが、この手から奪われてしまうのは耐えられない
君はオレの隣にいるべきだ
たった一人の、特別な存在として
決して離れてはいけない
いけない
その名を、全身全霊をこめて呼んだとき、オレはどのように見えていただろう
形振りを構わず、取り乱し、言の葉を飛ばす
振り向き、オレを捉えた眼差しを、絡めとり、手繰り寄せた
時に優しさを、苛立ちを、親しみを含みその名は口の端に上る
その響きにいつから惹かれるようになったのか
時に安らぎを、驚きを、そして甘さを滲ませてその名を口にする
その響きにいつから魅かれるようになったのか
何でもない名は、いつしか様々な彩を織りなす響きとなった
君はオレに名を呼ばれなくてはならない
たった一人の、稀有なる存在として
失うことはできない
失えない
失えるはずがない
君を連れ去る自由な手は、あらわれるだろうか
君の名を呼べぬほど、遠くへ攫われてしまうことがあるだろうか
どうしようもない焦燥とこがれるような想望を抱いて
暗澹の夜に沈む