MOON
光坂亜輝は焦っていた。
なぜなら、まもなく月がのぼるからだ。
夏の満月が夜の帳に光を投げおろす時間は19:00。
もう時間がない。
バスから降りると、彼は夢中で走りだした。
月と出逢う前に、彼はどうしても帰らなくてはならないのだ。
高天宏は忘れていた。
自分が月下に身を置いてはならないということを。
いつもの通り出かけ、いつもの通り帰路についた。
薄闇に包まれ、夜の気配と共にまるい月は顔をだす。
自転車を軽快に駆る彼は気づかない。
その時がくるのはあと少し、気がついた時にはもう遅い。
冷泉寺貴緒は途方に暮れていた。
これは実験のつもりだったのだ。
満月色の光は同じ波長で変身するのか。
彼女は甘く見ていた、いや、本当は信じていなかったのだ。
夜目で飛べないという知識と、体感の違いに愕然とする。
皓月の下に、彼女は取り残された。
佐藤夢美は驚いた。
月光が満ちる庭に、緑猫・銀狼・白鷹が決まりが悪そうにいたからだ。
その様子が可笑しくて可愛くて、つい笑んでしまった。
「レオンちに行ってみようよ」
言葉通りに、月明りの中で腕の中のぬくもりと、足元のやわらかさと、
肩に重みを感じながら、彼女は軽やかに歩み出した。
鈴影聖樹には予感があったのかもしれない。
天高くある満ちた月は、闇を支配するかのように明るく輝いている。
彼が窓越しに見上げた瞬間だった。
響くノックの音と、羽音と足音。嬉しそうな笑顔と、安堵する声。
微笑ましい賑やかさを、微笑みながら室内へ迎え入れる。
彼の貴女と、騎士たちを。