愛しい欠片を集めて 銀バラの欠片
『あたしのことユメミって呼んでくれませんか?』 『なんだか佐藤って堅苦しい気がして。せっかく知り合えたんだし、気軽にユメミって呼んでください』 そういわれても、わかったとうなずくしかなかった。 名前など、どう呼ばれようが呼ぼうが、重要なことに…
「あーもう、あちぃなー!こうも暑いんじゃ勉強なんかやってらんねーよ」 「高天さんは暑がりすぎだよ」 「鍛錬が足りんからだ。少しは黙ってられんのか」 「わかったからちょっと待ってなさいよっ」 ロッジの扉をあけるとそのような声が飛び込んできた。 み…
傘の花が開いて次々に校門へと流れていく。 ボクは玄関口の前で彼女を待つ。 六月の雨は少し冷たくて好きだ。 まだかな、もうそろそろ…… あ、きた。ボクが顔をむけるとすぐに彼女も気がついた。 「あれ、光坂クン。どうしたの」 夏服に衣替えした彼女は軽や…
9月15日はあたしの誕生日。 今日はパパも早く帰ってきてくれる。 いつもユメミに家のことをまかせっきりだから、誕生日はしっかりお祝いしたいって、パパはママが死んでからずっとそうしてくれてるの。 定時に帰ってくるなんて珍しいパパだから、あたしは毎…
風呂から出ると、まずはベランダにでるのがオレの日課。 9月っていってもまだまだあつい。 タオルで髪を拭きながら窓をあけ外に出ると、ユメミん家の庭にススキとダンゴが供えられているのがみえた。 ススキ、ダンゴ、お月見、十五夜…… 「……今日って満月だっ…
宏へ、おばあさんからもらったスイカを夢美ちゃんのお家にもっていってください。 あとお昼はいないので自分で食べてください。 追伸 あまり出歩いたりしないように。宿題やりなさい! 朝遅く起きると、台所の机の上にこんなメモがあった。隣には白い袋に入…
その晩、ロッジの扉が開いたとき私は事態を理解した。 そこには騎士候補生たちだけでレオンハルトはいなかったからだ。 話を聞くと、殺人の容疑をかけられ警察に事情聴取に向かったという。 監査という段階じゃない。彼は四誓願に抵触した。これはもう総帥…
5月1日、私は騎士団の命により日本へと降り立った。 気流の乱れによる搭乗機の遅れにより、到着予定時刻をかなり過ぎての到着となってしまった。 手早く日本支部ロッジに連絡を入れると迎えの車に乗り込む。 今回の来日の目的は失われた七聖宝の一つ、オンデ…
私はいま、自分の愚かさに呆然としている。 ロッジは普段、私たち騎士候補生のために開放してある。 今日は勉強会の日ではないが、入団試験の勉強をするためにここの図書室に籠っていたのだ。 満月であることは知っていた。だから月が昇るその前に切り上げて…
第三十一代ミカエリス家当主。 銀のバラ騎士団総帥。 誇り高きもの、選ばれしもの。 オレはこの言葉を胸に刻みつけている。 夏の名残りを残す初秋の朝。 いつものようにリムジンから降りたつと、ユメミは玄関のドアを開けてでてきた。 オレの顔をみると少し…
二次創作的なことをするようになってから約一カ月。 書くということを前提として読み込んでいるといろんな面が見えてきます。 イメージしやすいのは冷泉寺さんと光坂くん。憧れから始まる恋というのは理解しやすいようです。 ユメミから距離があるというのも…
私は雨の日が好きだった。 優しい銀色の檻が私たちを閉じこめてくれるから。 遼はすぐにお屋敷の外へいってしまう。サッカー、バスケットボール、テニス、フェンシング… 新緑の若木のように、陽の光を求めずにはいられないのだ。 雨の日は1日中お屋敷で私と…
もうすぐ月が満ちる。ボクは心待ちにしているんだ。変身は苦しいよ。でもわかっていればそれなりに対処できるからいいんだ。 それより彼女が可哀想だと思うんだ。だって、心の動きがボクたちにわかっちゃうんだよ。一番繊細で大切なことが周りに知れちゃうっ…
それは柔らかな日常 扉を開けると鼻をくすぐる淹れたての紅茶の香り カーテンから差し込む穏やかな午後の光 何もかもが祝福された平凡な日々 そのぬくもりを抱きしめていたい それは眩しいまでにまっすぐな言葉 受け止めるにはあまりにも違いすぎて 異国の言…
知ってる? 彼女の髪に光があたると透けるように栗色に輝いて綺麗なこと 柔らかい髪の毛が光の束のように見えるんだ 一番近くで見ることができる、ボクだけの秘密 知ってる? 彼女の指先は少し硬くて、優しいこと 水仕事が多いのかな、それだけ家族を愛して…
わたしはあなたほど壮絶に孤独な魂を知らない。 おさないころ笑いあい、木陰で休み、水切りをしたあなたは無邪気で眩しかった。 お母さまと小母さまはバタ付きのパンとスコーン、木苺のジャムでお茶をし、わたしたちのために冷たいソーダ水を用意してくださ…