昼下がりの幸せ
宏へ、おばあさんからもらったスイカを夢美ちゃんのお家にもっていってください。
あとお昼はいないので自分で食べてください。
追伸 あまり出歩いたりしないように。宿題やりなさい!
朝遅く起きると、台所の机の上にこんなメモがあった。隣には白い袋に入ったスイカが二玉おいてある。
オレはメモを見ながら寝ぼけた頭を掻いた。
オフクロいねーんだ。そういや昨日料理教室の講習会で出かけるっていってたっけ。
先月一週間くらい無断でドイツにいって以来、オフクロはオレが出かけるのをいい顔しない。まーそれはしゃーないな。
ユメミかぁ、しばらく顔みてねーな。
時計を見ると十二時をまわってる。この時間なら家にいるよな。
玄関のベルをならすと、しばらくしてからユメミが出迎えてくれた。
「ああヒロシ。どうしたの?」
「これ、オフクロが持ってけって。スイカ」
二つの白い袋を持ち上げて見せた。
「いつもありがとう。あれ、今日おばさまは?」
「オフクロ講習会でいねーんだ。だからオレが持ってきたの」
おまえの顔もみたかったんだけどな。
なんて恥ずかしいから絶対言わねーけど。
室内から香ばしいいい匂いがしてきて腹がぐうっと鳴った。
そういや起きてからなんにも食ってなかったっけ……
「あのさーユメミ、オレ腹減ってるんだけど」
探るようにいってみた。
「いいわよ。おばさまいないんでしょ。おひるうちで食べてく?」
「いいの?やったーオレおまえの料理大好き!」
らっきー、いってみるもんだぜ!
急いで靴を脱いであがる。
あれ……
そういやいつもなら人吾のやつが高天のお兄ちゃんケンカ教えて!って出てくるのにこないな。
「今日は天吾も人吾もいないの。二人してお友達の誕生日会にお呼ばれなのよ」
先をいくユメミは振り返ってオレの考えを見透かすようにいった。
てことはユメミん家で二人きりか……
なんだか急に胸がそわそわしてきた。あーもうオレって純だよなぁ……
オレはもってきたスイカを冷蔵庫の前に置いた。
台所の机をみると食べかけの炒飯があった。香ばしい匂いはこれか。
その真向かいの椅子に座ると、ユメミは氷の入った麦茶を出してくれた。
からんと音をたててオレの前に置かれる。
「ヒロシも炒飯でいいわよね?」
ふわふわした髪を一つに括りながら聞いてきた。
髪を高く結んだユメミの首筋が白くてどきりとする。
料理をする後姿をみてオレのために台所に立つユメミがなんだかすごく可愛く思えた。
「ネギは抜いたほうがいいわね。犬は食べちゃいけないもの」
ムカッ。
「オレは犬じゃねー、狼だ!!」
前言撤回、やっぱ可愛くねえ!
10分もしないうちにオレの前には大盛りの高菜炒飯が置かれた。
いただきまーす!
「うまい!おまえ本当に料理だけは上手いよな!」
「だけは余計よ」
「褒めてんだからいいだろ!オレおまえの作るメシが一番好きだぜ、最高!」
ユメミは少し拗ねたように見てからまんざらでもないような顔をする。
ほんと顔にでるのな。
こうやってユメミのメシを二人で食うのは久しぶりだ。
なんだかすごく幸せに感じた。
ふとユメミの顔をみる。あらわになった右耳には丸いピアスがついている。
先月まではなかった、ピアス。
二人きり。こんなときならずっと気になっていたことを聞いてもいいよな。
「なあ、ユメミ…」
真正面、見つめていった。
「ほら、オレ変身するようになってから鼻が利くようになっただろ。おまえはなんか変わったことねーのかなって思って。大丈夫か?魔王子の影響とかない?」
ずっと気になってた。おまえになんかあるんじゃないかって。オレはいいよ。
でもおまえに今でもピアスのこと以外でなにかあったらって、心配してたんだ。
ユメミは眼を少しまるくして、それから
「心配してくれてるんだ。あたしは大丈夫よ、あれからおかしなことはないし。
ありがとね。」
明るく瞳を輝かせて照れたようにふわっと笑った。
可愛い。
いつになく素直にいうものだからどきどきしてしまう。
オレは照れ隠しに残りのチャーハンをかきこんだ。
ユメミは立ちあがって明るく言った。
「ねえ、プリン食べていかない?今日作ったのよ。どう?」
オレは即座に頷いた。
今日は一日ユメミといよう、そうしよう。
そう思った。