柔らかな日常
それは柔らかな日常
扉を開けると鼻をくすぐる淹れたての紅茶の香り
カーテンから差し込む穏やかな午後の光
何もかもが祝福された平凡な日々
そのぬくもりを抱きしめていたい
それは眩しいまでにまっすぐな言葉
受け止めるにはあまりにも違いすぎて
異国の言葉のようなそれは心をとらえて離さない
敬愛と信頼と憧れ。ひとみには純粋な好意が溢れている
その手を強く引き寄せれば、好意は恋に変わるだろう
でも 引き寄せることはできない
でも 離すこともできない
それは貴い女性
赤味がかった柔らかい髪 栗色の瞳 前を向く真っ直ぐな心
背中には透明な翼、力強く羽ばたかせる
ふと手を伸ばしてその羽に触れて
幸せという意味を少しだけ知る
ロッジの扉をあけて中にはいる。
どうやら先客がいるようだ。
漂う紅茶の香りの中を通ってキッチンへ。
そっと覗くと後ろ姿が見える。まばゆい陽光を浴びてキラキラと輝く。
すっかり満杯になったポットを持って彼女は振り返った。
眼が合う。眩しくて目を細めた。
「わあ、びっくりした!」
弾む声はとても素直だ。
「今日は苺のタルトを焼いてきたんです。春といえば苺ですよね!」
「お茶を淹れたところなんです。皆はまだだけど、お茶だけでも飲みません?」
それはあたたかく喜びにあふれている