Opalpearlmoon

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雨とキミとの距離

傘の花が開いて次々に校門へと流れていく。
ボクは玄関口の前で彼女を待つ。
六月の雨は少し冷たくて好きだ。
まだかな、もうそろそろ……
あ、きた。ボクが顔をむけるとすぐに彼女も気がついた。
「あれ、光坂クン。どうしたの」
夏服に衣替えした彼女は軽やかで、白いブラウスがまぶしかった。
「今日はね、レオンさんも高天さんも都合が悪くてボクが送ることになったんだ」
「そうなの、悪いわねー。別に大丈夫なのに」
すこし口をとがらせて、困ったようにいう。
そんなことないよ。ボクは君と重ねる時間が増えるのが嬉しい。
そんなことないよ。キミが危ない目にあうかもしれないんだ。だから大丈夫なんていわないで。
彼女は下駄箱から靴を取り出し履き替え、傘立てから傘を抜いた。
そして傘をさし、並んで歩きだす。
「ほら、オンディーヌの聖衣のことがあったでしょ。レオンさん気にしてるんだよ」
実際に月光のピアスが狙われた事件。
あれ以来、レオンさんはすこしぴりぴりしているように見えた。
「ボクだって心配だよ。ユメミのこと」
きっと、キミが思っている以上に心配してる。
「そうね、気をつける。心配してくれてありがと」
ちょっと神妙な表情をしてから、ハシバミ色の瞳だけで微笑んだ。
すこしの沈黙。ならんで校門まで歩く。
 
傘と傘との距離、あいだがあくね。
30cm60cm? 誰か一人分くらいの距離。
ボクにはその距離がもどかしい。
二つの傘の下、二人を繋ぐ空間に隔てるものなんてなにもないのに。
そこに“誰か”を感じてしまう。
 
「あ、バスがいっちゃう!」
声を上げて指をさす。門の向こうの行列が、のそのそと動き出しているのが見えた。
「行こう!」
鞄を持つ手で器用にボクの手を引っ張る。ボクはぐらりとゆれ、彼女へと一歩踏み出す。
そういって駆けだす。まるでとても楽しいことが待っているかのように。
そうだ、近くに行きたかったら、こうして手を取ればいい。
考えているより簡単なことだった。
一緒に走って、バスに乗り込む。
「ぎりぎり間に合ったわね!よかったぁ」
ホッとして息を付き、笑いかける。その笑顔につられボクも笑う。
窓ガラスをつたう水滴はだんだん少なくなっていく。降りるころには止んでいるかもしれない。
そうしたらキミのとなりに立って歩こう。
 
閉じた傘を片手に持って。できればキミの手をとって。