Opalpearlmoon

Yahoo!ブログから移転しました。

誕生日に貴方と 1

「おまえはなにがほしい」
 
その白い花を受け取ったとき、声が聞こえた。
低い女の声。だがそれはすぐに聞きなじみのある響きに変わった。
『おまえはなにがほしい?』
低く艶やかな、染み入るような、レオンの声。
それは私の耳元で囁くように聞こえた。
そして記憶の中の、懐かしい幼い声と重なる。
 
――たかおさん、明日誕生日なんだってね。母さまから聞いたんだ。
                          プレゼントは何がいいかな?僕に教えてよ――
 
『明日誕生日だろう、何がほしい?オレに教えてよ』
 
幻聴か……?
疲れがたまっているのか。あたまがくらくらする。
こんなところでレオンの声がする訳ないじゃないか。
抗おうと軽く頭を振ろうとしたが、ぴくりとも体が動かなかった。
なんだ、これは。
どういうことだ。
『どうして嫌がるんだ?オレはおまえの気持を聞いているんだよ』
優しく囁く。吐息が耳にかかるほど近く。
今まで聞いたことがないほど甘やかな声。
眩暈がする。
『オレにどうしてほしい』
いけない、いけない、いけない!
こんなこと、あるわけがない!
『どうしてそう思うの?』
だってレオンは……!!
躊躇いその言葉を呑み込む。
それを嘲笑うかのようにレオンは艶めいた音色で嘯く。
『なんでもしてあげる』
本当に?
官能的なまでに甘美な響きにとけてしまいそうだった。
 
『だから、いって』
 
ああ。
 
私は熱に浮かされる様に元来た道を辿った、
背中に刃を握りしめながら。
 
 
扉をあけると、椅子に腰をかけたレオンハルトがみえた。
 
艶やかな翠緑の髪が蝋燭の細い灯をうけて蒼然とした彫りの深い顔にくっきりと影を落としていた。
秀でた額、整った眉、気品のある鼻梁、吸い込まれそうなオニキスの瞳を長い睫が華やかにいろどっている。
少しやつれ、線の細くなった頬は彼を繊細に見せ、精悍な容貌と入り混じり、そのアンバランスさが壮絶なまでに美しい。
高潔な唇は色を失い、彫刻のようだ。頬を走る朱は、大理石のような白皙の肌をよりいっそう際立たせていた。
羽織ったシャツの下から見える、なめらかな首から逞しい肩、そして厚い胸にかけてはしる包帯は光るかのように輝き、まるで彼の身を守る白い甲冑のようだった。
 
なんて綺麗なんだろう……
まばゆいほどに美しいレオンハルトに、見惚れた。
 
『さあ、いってごらん』
 
レオンは目の前にいるのに、声だけがすぐ近くに響く。
熱のこもった、うっとりするような誘い。
 
レオンハルトは椅子から静かに立ち、こちらをみた。
僅かに眉をひそめ、問いかけるような目をして。
どうしてそんな顔をするの?
 
「レオン、ハルト……」
美しい顔を見つめて、歩み寄る。
レオンハルト、頼みがあるんだ」
麗しい瞳を見つめて、その前に立つ。
「一度でいい。ただ一度でいい、抱いてほしい」
逞しい首に腕を伸ばして、絡ませる。
「抱いてほしい、レオンハルト、お願いだ!」
 
それが願い、それが望み、それが、欲しい。
 
レオンハルトの見開いた瞳に私だけが映り、それをうっとりと見つめた。
背に腕がまわり、ギュッと抱きしめられた。
その力強さに身を任せた瞬間、私の視界は闇に溶けた。