Opalpearlmoon

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25個のお弁当

 
 
少女のころにはわからなかったことで、大人になってから理解できたことってありますよね。
今回はそんなお話。
 
 
『月光のピアス』冒頭、ユメミはヒロシからサッカー部の夏合宿のお弁当25人分を頼まれたことから物語は始まっていくわけですが、ここに注目してください。
 
 
お弁当25個ってすごくないですか?!
 
 
まず合宿日が土曜日であることを考慮しましょう。
日曜日ならお昼の時間までに作り上げればいいのだから時間に余裕がありますが、午前授業があるので朝家を出るまでに全部作り上げないといけないのです。
ユメミちゃんは女の子ですし自分の支度もあります。
となると調理に使える時間は7時くらいまででしょう。
さらにこの日はいつもならお弁当を作らなくてもいい日なのにわざわざ早起きして調理してるんです。
自分だったら楽出来る日くらい楽したいよ、これだけもすごいです。
 
男子高校生のお弁当なんだから内容はボリュームのあるものだと考えられます。
お弁当箱の容量は900mlが適量だとか。女の子や子どもとはくらべものにならない量です。
炊飯器で4・5回フルに炊かないとご飯が用意できません。
30分炊きだとしても二時間から二時間半。
しっかり冷まさないとふたをできないのでさらに時間がかかります。
昔は今ほど冷凍食品が豊富ではなかったのとコストを考えると当然おかずもぜんぶ手作り。
こちらも冷まさないとお弁当につめることができません。
きんぴらや煮物など副菜は前日から用意しておけますが、卵焼きや空揚げなどメインは朝作って冷まします。
朝作った方が美味しいからですね。「佐藤夢美の手作り弁当は美味しい」というふれこみですから、そこは主婦のプライドにかけて頑張るんじゃないかな。
夏だから食中毒になるようなものは入れられないし、気をつけて作業しないといけない。
これら25人分作るだけでも大変なのに、折り詰めにつめる作業まで1人でしないといけないんだから気が遠くなります。
この折り詰めもですよ、ヒロシ1人なら家にあるお弁当箱でいいけど25人分ともなれば使い捨ての折り詰めと割り箸になるからこれも買いにいかないといけないわけで、時間も手間もかかっています。
 
これを1個600円でやるわけですよ。
ユメミちゃんすごいとしかいいようがないです。
私だったらイヤだ、15000円くらいでやりたくないっ!(笑)
朝4時起きで他人のお弁当なんてできないっすよ。
ヒロシの頼み方も普段いかに料理してないかわかりますよね。
お弁当作る大変さをまったくわかってない。
1個でも大変なのに気軽に25人分とか言っちゃダメだ(笑)
まあ、男子高校生なんてそんなもんですけどね。
でもこれって当時の読者たちもそうだったんじゃないかな。
自分でお弁当作っていたわ、という方もいらっしゃると思いますが、母親任せの子も多かったはずです。
作る側の苦労なんて知らないで、主婦なんだから手際よく作れちゃうに決まってる!みたいな少女の思いこみの延長で、ユメミに対しても気にも留めてなかったのではなかったでしょうか。
それが冷静に考えるとかなり凄いことだったという。
こういうことってよくありますよね。
少女には若いからこその豊かな想像力という武器がありますが、地に足がついた感覚はよくわからない。
物語の導入部分にすぎないと流していたところでしたが、今はまず最初にすごいっ!てなりますもの。
さらにここの部分、ユメミの性格をはっきり表しています。
手間より15000円をとったことに若さを、義理だけじゃないところに現実主義を、美味しいって自慢されてその気になるところに愛らしさを、結局ヒロシに頼まれたちゃうところに世話焼きなところを表していて、ここの部分だけでどんな性格かわかっちゃうわけです。
よく考えられています。
ヒロシはヒロシで、こういうことを気軽に頼んじゃうやつ、気軽に頼める仲だったよくわかります。
こういう読み方も今ならではですね。
 
いやー、ユメミちゃん尊敬しちゃう!
と、お弁当箱を見ながらあらためて思った秋の夜でした。